AIプロジェクトの本番移行を阻むネットワークの課題
IDCが実施した調査「2026 AI in Networking Special Report Survey」によれば、多くの企業がAIの概念実証(PoC)を進めている一方で、それを本番環境に移行させる段階でつまずいている現状が浮き彫りになりました。このボトルネックの主な原因はインフラにあり、特にネットワークに関する懸念がAIプロジェクトの遅延や中止の主要因となっています。
調査では、具体的に以下の3つの課題が上位に挙げられています。
- セキュリティへの懸念(回答者の32.6%):AIワークフローが分散化し自律性を増すにつれて、一貫したセキュリティとガバナンスの適用が難しくなっています。
- 自動化の課題(回答者の26.8%):手動による運用や管理の分断が、デプロイメントを遅らせ、AI環境のスケーリングを困難にしています。
- スタッフの時間と人材の制約(回答者の24.7%):スキル不足や運用リソースの限界が、AIイニシアチブの本番移行を妨げています。
エージェンティックAIは、アプリケーション、サービス、API、ツール、データソース間のより分散的で動的な相互作用を導入することで、これらの懸念を特に高めています。
これらの課題は、エージェンティックAIの特性によってさらに深刻化するとIDCは指摘しています。エージェンティックAIは、複数のエージェントフレームワーク、モデルプロバイダ、クラウド、オープンソースツール、SaaS API、内部アプリケーションにまたがる動的な相互作用を生み出すため、運用範囲とセキュリティ・ガバナンスの対象範囲が拡大します。これは、まさにマルチクラウド環境でAIを動かそうとする際に直面する典型的な課題ではないでしょうか。
運用の統制、セキュリティ、ガバナンスを実現するネットワーク
エージェンティックAIシステムにおいて、ネットワークは単なる接続機能を超えた役割を担います。IDCは、ネットワークが運用統制、セキュリティ、ガバナンスの基盤となるインフラプラットフォームのコントロールプレーンの一部であると強調しています。特に、フレームワークレベルの制御だけでは、異なるランタイム、クラウド、デプロイモデル、運用ドメインにまたがるエージェントやサービスを管理するには不十分だとしています。(出典 )
| 機能 | 従来のAIワークロード | エージェンティックAIワークロード |
|---|---|---|
| トラフィック | East-Westトラフィック増大 | 動的かつ分散的な相互作用の増加 |
| 制御 | アプリケーションレベルのポリシー | アプリケーションワークフローに近い詳細なポリシー、可視性、制御 |
| セキュリティ | 静的な境界防御が主 | サービス間の一貫したセキュリティ、動的なポリシー適用 |
| ガバナンス | 各コンポーネントで個別 | インフラレベルでの一貫したポリシー適用 |
ネットワークサービスは、サービス間の相互識別、安全な通信、データ交換の方法を管理する、よりサービス中心の制御へと進化しています。これは、GCPのPrivate Service ConnectやService Directoryのようなサービスが、今後のエージェンティックAIにおいて非常に重要な役割を果たすことを示唆していると感じます。動的なエージェント間の連携では、きめ細やかなアクセス制御や通信経路の最適化が必須となるでしょう。
プラットフォームアプローチとベストオブブリード戦略のバランス
エージェンティックAIシステムは、その分散型ワークフローの性質上、本質的に断片化されています。企業は現在、急速に進化するビジネス要件、オープンソースコンポーネント、新しいプロトコル標準、アーキテクチャパターンに直面しており、ベストオブブリードのポイントソリューションとプラットフォームベースのアプローチの選択は、イデオロギー的ではなく戦略的であるべきです。(出典 )
Googleや業界パートナーは、AIエージェント向けのオープン標準「Agentic Resource Discovery (ARD) Specification」を発表しており、これによりツール、API、エージェントの公開、発見、検証が可能になります。(出典)このような標準化の動きは、断片化されたエージェントエコシステムにおいて、相互運用性と信頼性を高める上で非常に重要です。
これは、個別の強力なソリューションを組み合わせていくベストオブブリード戦略と、統合されたプラットフォームで一貫性のある環境を構築するプラットフォーム戦略のどちらを選ぶかという永遠の課題に似ています。私の個人プロダクトでも、特定の機能にはオープンソースのツールを使いつつ、全体的なインフラはクラウドプラットフォームに統合することで運用コストを抑えることが多いです。エージェンティックAIでも、このバランスが成功の鍵を握るのではないでしょうか。
エージェントウェブの未来とDNSの役割
TechCrunchの報道によると、インターネットの生みの親の一人であるヴィントン・サーフ氏が、AIエージェントがオープンインターネット上で識別し合うためのオープンアーキテクチャの構築を目指すInnovation Labsに助言しているとのことです。(出典)DNSレジストリ企業であるIdentity Digitalの子会社であるInnovation Labsは、AIエージェントの信頼性を確保し、人間よりもエージェント間のオンラインインタラクションが増える未来に対応するための実用的な方法として、ドメインネームインフラストラクチャに注目しています。
これはかなり衝撃的なニュースです。AIエージェントがインターネット上で自律的に活動する未来が、具体的な技術として現実味を帯びてきていると感じます。
現状、多くのAIエージェントはプロプライエタリなシステム内に留まっていますが、将来的にはインターネット上でより自律的に動作し、他のエージェントと直接対話することが見込まれています。しかし、The Registerの記事が指摘するように、現在ほとんどのウェブサイトは人間を対象として設計されており、AIエージェントによるアクセスが拒否されるケースが頻繁に発生しています。(出典)
これは、既存のインターネットインフラがAIエージェントの動的な行動に対応しきれていない現状を示しています。AIエージェントが自由に、そして安全に相互作用できるような「エージェントウェブ」の実現には、今回IDCが指摘したようなネットワークインフラの根本的な見直しが不可欠となるでしょう。