AIの急速な進化が産業競争ルールを一変させている

中国の通信機器大手 ZTE が 2026年6月にシャンハイで開催される MWC Shanghai 2026 で発表した新戦略が、かなり示唆的です。同社の最高開発責任者である崔麗(さい・れい)氏が登壇し、「Unlocking Value and Embracing Uncertainty in the AI Era(AI時代における価値創出と不確実性への対応)」と題した基調講演を行いました。(出典)

崔氏が指摘する最大の課題は、テクノロジーの進化サイクルが劇的に短縮されているという点です。具体的には以下のようなペースで革新が起きています。

  • ソフトウェア領域:大規模言語モデルは毎月、あるいは毎週単位で更新。大きな機能向上が 6 ヶ月ごとに起こる
  • ハードウェア領域:NVIDIA などのチップメーカーが 2 年ごとに新アーキテクチャを、毎年フラッグシップチップを投入し、計算供給量を継続拡大
  • 推論効率の向上:インファレンスコスト低下が急速に進み、競争構造そのものを変えている

テック企業はもはや、正しい技術ロードマップを選び、資産更新のペースを決め、人材スキルを整える難易度が格段に上がっている

これは自作 PC で Stable Diffusion を運用するエンジニアの方なら肌感覚で理解できるでしょう。GPU の新世代が出るたびに性能が跳ね上がり、前年度のモデルでさえ陳腐化のリスクを感じるペースです。企業レベルではこの不確実性に対応すること自体が、戦略的な最優先課題になっているのです。

市場の「細分化」と「一サイズ万能論」の終わり

もう一つ、崔氏が強調していたのが、市場が前例のないスピードで細分化されているという観察です。

これまでの産業界では「規模の経済」が効き、大量生産・大量販売が競争優位性を生み出していました。しかし AI の登場がこの構図を変えています。

消費者側の変化: - パーソナライズアルゴリズムが長尾需要を爆発的に増やしている - ニッチなブランドが eコマースプラットフォーム上のコンテンツマーケティングを通じて急成長

生産側の変化: - 「少量多種、納期短納」モデルが常態化(柔軟製造と AI 品質検査で実現) - 感情経済や体験経済が急速に伸長(AI ペット、メンタルヘルス、シルバーテック など)

「万能なソリューション」の時代は終わり、シナリオごと・顧客ごとのカスタマイズが当たり前になった

この観点は、クラウドインフラの世界で我々が目にしている「マイクロサービス化」「エッジコンピューティングの台頭」と共通しています。GCP や AWS でも、汎用的な一つのサービスではなく、特定ユースケースに最適化されたサービスの組み合わせが主流になっているのと同じロジックです。

ZTE の対応戦略:「All in AI, AI for All」と 4 つの要件

このような環境下で ZTE が掲げた戦略が「All in AI, AI for All」です。具体的には 2 つの柱があります。

1. AI 価値の最大化(All in AI)

製品やソリューションに AI ネイティブ機能を深く組み込み、価値提供を飛躍的に向上させる。同時に、人間と機械の協働を特徴とする、データドリブンな組織への機敏な進化を推し進める、というアプローチです。

2. レジリエンス重視の AI システム構築(AI for All)

不確実性に対応するため、以下の 4 つの要件を掲げています:

要件 意味
オープン性と疎結合 特定ベンダーへの依存を減らし、柔軟なシステム構成を実現
柔軟なスケーリング ワークロード変動に素早く対応できる拡張性
極限のシナジー 計算・ネットワーク・ストレージ・エネルギー・ソフトウェアの統合最適化
シナリオファースト 個別ユースケースから設計を始める

参考記事によると、ZTE は MWC Shanghai 2026 で「TCO 最適化 AI ファクトリ」も披露しており、トークン効率を重視したシステム構築に舵を切っています。(出典)

今後の競争は「計算パワーの絶対量」から「トークン生成あたりのコスト効率」へシフトする

これは正直、かなり現実的な見立てだと感じます。NVIDIA が GPU を積む限界も見えてきており、同じワークロードを低コストで実行することが次の勝負になるのは明白です。自作 PC でローカル LLM を動かす際も、メモリバンド幅とストレージ I/O が推論速度の足かせになることを身に沁みて感じている開発者の方は多いでしょう。

業界全体への波及と、エンジニアの実務への含意

参考として、ZTE はまた GSMA との戦略パートナーシップも発表し、2026年9月に「15th ZTE Global Summit & User Congress」と「GSMA M360 ASEAN」を共同開催することを決めました。(出典)

これは単なるイベント開催以上の意味があります。ネットワークオペレータ、エンタープライズ IT リーダー、技術専門家が一堂に会し、「接続から デジタル価値までの進化」という大テーマで、インクルーシブな AI 実装と地域のデジタル経済成長を議論する場になるでしょう。

エンジニアの方にとっての実務的な含意としては、以下が重要です:

  • マルチベンダー対応の必要性:「オープン性と疎結合」を重視する流れなので、GCP・AWS・Azure を単一選択するのではなく、ワークロードごとに使い分ける柔軟性が求められるようになる
  • トークン効率への注目:推論コストが競争要因になるため、モデル選定時に「パラメータ数」だけでなく「生成トークンあたりの実行コスト」を意識する
  • シナリオ起点の設計:汎用的な「デジタル化」ではなく、個別ビジネス課題に最適化されたカスタム AI ソリューションのニーズが急増する