DHHが提唱するLLM時代の新たな開発アプローチ

DHH氏はRails World 2026の基調講演で、自身が「プロのプログラマーを引退した」と宣言しました。彼は自身を「Maker」と称し、LLM(大規模言語モデル)を活用した開発へ完全にシフトしたことを明らかにしています。彼によれば、「手作業でのコード記述は、もはや大多数のプログラマーにとって経済的に生産的な事業ではない」とのことです。

これはかなり衝撃的な発言だと感じました。自身のフレームワークのカンファレンスで、このような発言をするのは並大抵のことではありませんね。

手作業でのコード記述は、もはや大多数のプログラマーにとって経済的に生産的な事業ではない。

彼の新しい開発戦略は、英語が最高のプログラミング言語であり、LLMが生成したコードを読む必要すらないという考えに基づいています。さらに、以前は懐疑的だったネイティブアプリケーション開発やRustに対しても、LLMがコードを書くことを前提とすれば、そのメリットを享受できると見方を改めたようです。

特にRustについては「人間が扱うには忌まわしい言語だが、LLMには最適」とまで述べており、パフォーマンスと安定性を重視する姿勢が見て取れます。これは、普段PythonとTypeScriptをメインに使っている私にとっても、非常に興味深い視点です。

DHH氏の具体的な活動の変化は以下の通りです。

項目 LLM導入前(年間平均) LLM導入後(今年8月)
コード記述量 約3万行 約15万行

特筆すべきは、今年の彼のコードのわずか3%しかRubyで書かれていないという事実です。これは、過去20年間彼の仕事の約半分を占めていたRubyとRailsにとって、大きな転換点であると言えるでしょう。(出典)

主力プロダクトにおけるRails離れと今後の影響

DHH氏が率いる37signalsが開発中の主力プロダクト「Hey」の次期バージョンでは、これまでのRailsではなく、LLMを活用して各プラットフォーム向けのネイティブアプリケーションを構築し、サーバーサイドにはRustを採用すると発表されました。これは、「小さなチームで野心的なプロダクトを構築するためのフレームワーク」として20年間売られてきたRailsにとって、非常に象徴的な出来事です。

DHHは、世界最高のRailsカンファレンスの基調講演を使い、主要なRailsアプリがRailsを離れることを発表した。

彼の新たなビジョンでは、RailsはBasecampのような「Webアプリケーションに適している」とはしつつも、その役割は「Webアプリが不可欠な場合に選択されるプラットフォーム」という狭いものへと変化しているように感じます。かつては「設定より規約(Convention over Configuration)」として評価されたRailsの特徴も、今では「トークン効率の良さ」として再解釈されているようです。

AIがRailsコードの生成に優れているという点は、Railsを使い続ける理由として提示されていますが、これは開発者にとって複雑な感情を抱かせるのではないでしょうか。(出典)

開発者として考えるべき未来

DHH氏の主張は、私たちエンジニアに「コードを手で書くことの価値」を改めて問いかけています。LLMがコード生成を担うようになれば、人間がコードを読むことは「Sentryでバグを見つけるように、例外的なこと」になるというのです。これは、多くの開発者にとって受け入れがたい意見かもしれません。

私自身も、日々Claude Codeを使ったバイブコーディングを実践していますが、最終的には生成されたコードをレビューし、修正するプロセスが不可欠だと感じています。AIが書いたコードの品質保証や、複雑なアーキテクチャ設計における人間の介在は依然として重要ではないでしょうか。

D彼は、人間がコードを読むことは、例外的なことであるべきだと主張している。

しかし、DHH氏は「私たちは今、すべてを望める。すべてを手に入れられる」と述べ、AIの可能性に強く期待を寄せています。彼は、AIに対する懐疑主義や悲観論を拒絶するよう聴衆に促しました。これは、AIの進化を現実として受け止め、その上で私たちの役割を再定義する必要があるという強いメッセージだと感じます。

私も普段からGCPを主軸に、BigQueryやCloud Runを使いながら個人プロダクトを開発しています。LLMがもたらす開発の変化は、サーバーレスアーキテクチャと組み合わせることで、さらに加速する可能性を秘めていると期待しています。しかし、AIが生成するコードに全面的に依存する未来は、現在の私自身のスキルセットや開発プロセスからすると、まだ想像しきれない部分も多いというのが正直な感想です。

Railsコミュニティへの影響と今後の展望

DHH氏の発言は、長年Railsと共に歩んできた開発者にとって、居心地の悪いものであったようです。参考記事では、「10年以上Railsアプリを構築してきたが、仕事の好きな部分を廃れた趣味として扱いたくない」という開発者の声が紹介されています。

(出典)しかし、DHH氏はこれを個々の企業の方針として捉え、「すべての開発者が明日から従うべき指示ではない」と説明しています。それでも、影響は大きいでしょう。

Railsは成熟し安定したフレームワークであり、その安定性はエージェント開発にとって好ましいという見方もできます。しかし、DHH氏自身がRubyでの作業が3%にすぎないことを考えると、Railsの今後の進化の方向性や、コミュニティにおける彼のリーダーシップのあり方が問われることになりそうです。今後、RailsがLLM時代にどのような新しい価値を提示していくのか、あるいは、別のフレームワークや技術スタックがその役割を担うことになるのか、注目していく必要があると感じています。

編集者コメント

Pythonバインディングがあれば試したいですね。DHH氏の言う「人間がコードを読まなくていい」という世界観は極端に聞こえますが、部分的にでも自分のアプリに組み込んで、開発速度を上げてみたいという気持ちはあります。RustのコードをLLMに生成させて、それをそのままデプロイする、というのは現状ではちょっと怖いですが、Codexのようなツールも日々進化していますし、Claude Codeに投げてみたら案外すぐに動くような気がしないでもないです。

ドキュメントが充実しているライブラリなら、より安全に試せるのではないでしょうか。うちのスクリプトにも、パフォーマンスがボトルネックになっている部分があるので、Rustを生成させて使えないか考えてみたいです。為替の動向も気になるところですが、GCPのリソース価格が上がらないことを祈るばかりです。