「エネルギーが多いほど平等性は損なわれる」というIllichの議論
思想家Ivan Illichは1973年の論文「Energy and Equity」で、エネルギーの利用は一定の閾値を超えると限界不効用を持ち、それ以上のエネルギー投入は負の結果をもたらすと論じました。(出典)
ある閾値を超えると、エネルギーの増大は平等性を犠牲にして進む。さらなるエネルギーの豊かさは、その支配権の分配を減少させることを意味する。
Illichはこの議論を交通・速度にも適用し、「一定の速度を超えた自動車は、自ら生み出した遠さを、自らしか縮められない」と述べました。速度そのものが交通の不平等を生む要因だという指摘です。1974年、石油危機の影響を受けた英国は、燃料をより公平に配分するため自動車の速度規制を導入しました。
筆者は、この歴史を踏まえて次のような仮説的な問いを投げかけています。
- 最大ハードドライブ容量に法的な上限を設けたらどうなるか
- CPUクロック周波数に上限を設けたらどうなるか
- ネットワーク速度に上限を設けたらどうなるか
もし今も80年代のマシンしかなかったら
筆者は、現在のコンピューティング業界に対する規制が、データ処理やアカウンタビリティに焦点を当てたものにとどまり、マシンの処理能力そのものを制限する発想はまだ議論の初期段階にあると指摘しています。そして「もし今もAmigaやAcorn Archimedesしかなかったら、MetaやAnthropicは作れただろうか」と問いかけます。
もし作れなかったのなら、技術的な処理能力そのものが、今日の問題の一因を担っている。
普段GCPやローカルのRTX 3090でLLMを動かしている身としては、この問いは少し居心地が悪くもあります。豊富な計算資源があるからこそ実現できていることも多い一方で、その豊富さ自体が何らかの不均衡を生んでいるのかもしれないという指摘には、簡単には反論しきれないと感じます。
e-bikeの15mph制限に見る「抑制の設計」
筆者が具体例として挙げるのが電動アシスト自転車(e-bike)です。英国・欧州のEPAC(電動アシスト自転車)規格では、モーターの出力が時速15マイル(約25km/h)で自動的に停止するよう法律で定められています。これは技術的な制約ではなく、既存の自転車インフラに収まるようにするための法的・政治的な選択だと筆者は説明します。
興味深いのは、この15mphという数値が、Illichが「世界中どこでも、この速度の壁を破った乗り物が現れると交通に起因する時間不足が拡大し始めた」と観察した閾値と一致している点です。
| 事例 | 制限の内容 | 制限の性質 |
|---|---|---|
| 英国の自動車速度規制(1974年〜) | 石油危機を機に燃料を公平に配分するため導入 | 法的・政治的な選択 |
| e-bike(EPAC)のモーター出力 | 欧州・英国で時速15マイル(約25km/h)で自動停止 | 法的・政治的な選択(技術的制約ではない) |
| コンピュータの処理能力(筆者の提案) | 最大ハードドライブ容量・CPUクロック周波数・ネットワーク速度の上限(仮説) | 前例がなく、議論の初期段階 |