英国CMAがAppleに決済ルール開放を正式提案
英国の競争当局である Competition and Markets Authority(CMA)は、AppleとGoogleのアプリストアに対する決済・支払いルールの緩和を正式に提案しました。この提案の核心は、開発者がユーザーをアプリストア外の決済オプションへ誘導(ステアリング)することを認めるというものです。
開発者がユーザーを App Store 外の決済へ誘導することが認められれば、アプリストアの手数料体系に初めて本格的な競争圧力が生まれます。
これまで英国の開発者は、Apple が このステアリングを禁止しており、Google も制限していました。今回の CMA の提案により、この制限が解除される方向へ動いています。同時に CMA は、Apple と Google が開発者に課す「ステアリング手数料」に条件を設けることも要求しています。
具体的には、以下の3点が求められています。
- ステアリング手数料は現在の App Store・Play Store 手数料より 低く設定すること
- 削減した手数料をユーザーへの値下げ、またはプロダクト開発への再投資に充てることを推奨
- 手数料は「公正かつ合理的」でなければならないこと
NFC 技術の開放により Apple Pay の独占に風穴
さらに注目すべきは、Apple Pay の基盤となる NFC(近距離無線通信)技術の開放も検討されているという点です。
これが実現すれば、開発者が自社アプリ内で独自の決済手段(例えば特定の仮想通貨や地域決済サービス)を提供し、それを iOS デバイス上で実行できるようになります。
NFC 技術の開放は、単なる決済手数料の競争ではなく、Apple のエコシステム内での決済デバイスとしての支配力そのものを揺るがす可能性を秘めています。
Apple は現在、iPhone の NFC 機能をほぼ Apple Pay に限定しており、これが iPhone でのコンタクトレス決済を Apple のコントロール下に置いています。開発者の立場からは、この制限が解除されれば、より創造的で競争力のある決済体験を実装できるようになるでしょう。
Apple の反発と規制側の立場の相違
Apple は CMA の提案に対して強く反発しています。Apple の公式コメントでは、ステアリングと NFC 開放により「詐欺、おとり商法、保護者向けコントロール回避の入り口が広がる」と主張しています。
同社は、Apple の決済インフラが提供するセキュリティ・詐欺防止のメリットを強調し、「ユーザーが信頼できる保護機能を失う」と警告しています。
この対立の背景には、規制当局と企業の異なる見解があります。
| 観点 | CMA・規制側 | Apple |
|---|---|---|
| 優先課題 | 開発者の競争機会と消費者の選択肢拡大 | ユーザーセキュリティと詐欺防止 |
| ステアリング | 認めるべき | セキュリティリスク |
| 手数料体系 | 競争圧力で低下すべき | 価値提供に応じた適切な対価 |
| NFC 開放 | イノベーション促進 | 不正利用の温床 |
CMA は今年2月に Apple を「戦略的市場地位(SMS)」に指定しており、これが強い規制権限を与えています。個人的には、この指定がなければ CMA もここまで大胆な提案はできなかったと考えます。SMS 指定は EU の「ゲートキーパー」規制に相当するもので、Apple のマーケットパワーが「規制介入の余地あり」と認定されたわけです。
EU 規制に追従する英国、開発者にとっての意味
この提案は、EU が既に Digital Markets Act(DMA)で進めている決済・アクセス開放の流れに英国も追従するものです。英国は EU 離脱後も、大型テック企業への規制枠組みを独自に構築する必要があり、今回の CMA 提案はその具体例となっています。
開発者の視点からは、以下のポイントが重要です。
- 短期的:ステアリング手数料が明確化・低下すれば、国際的な SaaS や決済ツールの導入コストが下がる可能性
- 中期的:App Store 外での決済オプション拡大により、サブスクリプション収益モデルの最適化が可能に
- 長期的:NFC 開放によりハードウェアレベルでのイノベーション競争が活性化
同時に、セキュリティ・フレームワークの責任分界をどう設定するかが今後の鍵になるでしょう。Apple が提起するセキュリティリスクは無視できない課題です。