発表の背景—AIエージェント爆発の時代に向けて

これはかなり衝撃的なニュースです。2026年6月26日に中国のMWC Shanghai 2026で発表されたZTEの「AIR Core」は、単なるネットワーク機能強化ではなく、通信キャリアのビジネスモデル自体を根本から転換する構想を打ち出しているからです。

ZTEのCDO(最高開発責任者)である崔麗(Cui Li)氏は同時期のGTI Summit 2026でも指摘していますが、AIが急速に普及する中で、AI エージェントを中心とした接続が指数関数的に増えることが確実になりました。(出典)

AIR CoreはこのAIエージェント爆発の時代に対応する、コアネットワークレベルでの根本的な再設計です。

これまでのネットワークは「通信容量をどう配分するか」という設計思想でしたが、AIR Coreは「AIエージェントの意図(Intent)を読み取り、最適なサービスを動的に提供する」という発想に転換しています。これは開発者視点でいえば、従来のREST APIやマイクロサービスアーキテクチャが基盤層で実現されるのに似た、ネットワークレベルでの大きなシフトと言えるでしょう。

三つのサービス次元での革新

AIR Coreが打ち出す改変は、声・データ・トークン(ビジネス)という三つの層で具体化されています。

Voice—AIアシスタント通話への進化

従来の「基本的な音声通話」から「スマートサービス統合通話」へと進化します。ユーザーはAIアシスタントをオンデマンドで起動でき、ネイティブなマルチモーダル対話(音声・テキスト・画像など)を通じて複雑なタスクを通話中に完結できるようになります。

さらに注目すべきは、99.9%の環境ノイズを除去するAI駆動型ノイズキャンセルを実装している点です。(出典)これは、ローカルLLMで簡易的なノイズ除去を試みるレベルではなく、ネットワークレイヤーで統合的に実装されるということ。モバイルネットワークの品質管理が、パイプラインの太さだけでなく「コンテンツの質」にまで及ぶようになります。

Bytes—エクスペリエンスの精密な可視化と通知管理

NWDAF(Network Data Analytics Function)とAI-UPF(User Plane Function)を統合することで、ネットワークは以下を実現します:

  • 精密なサービス特定:ユーザーが何をしているのかをリアルタイムで把握
  • QoE(Quality of Experience)の動的評価:体感品質をミリ秒単位で測定
  • サブセカンド(1秒未満)のポリシー動的調整:変化に即座に対応

高速鉄道などの高付加価値シナリオでは、時空間的な大規模言語モデルを活用してユーザープロファイルをリアルタイム構築し、専用ネットワーク保証を提供するということです。(出典)

要するに、これまでの「全ユーザーに同じQoSを配分」という考えから、「ユーザーごと・シーンごとに最適なリソース配分を秒単位で動的に調整」へと変わるということです。

Token—通信からAIサービス販売へのビジネスモデル転換

これが最も興味深いポイントです。AIトラフィックの特性が従来の「ストリーミング」「ウェブ閲覧」といったパターンと全く異なることに着目しています。

AIエージェントのトラフィックは以下の特性を持つとしています:

  • マルチモーダル性:音声、テキスト、画像、ビデオが混在
  • バースト的でリアルタイム:突発的に集中したアクセスが発生
  • 非対称なアップリンク/ダウンリンク:従来と逆で、デバイスからのアップロード(推論結果の送信など)が増加

AI-UPFはこれらのパターンを精密に識別し、トークン単位での課金・計量を実現します。これはつまり、キャリアが「GB単位の接続料金」から「AI推論ワークロードの計算コスト相当分を課金」するモデルへシフトするということでしょう。

三つのスケールでのネットワーク再定義

AIR Coreはさらに「サービスの対象」「カバレッジ」「内容」という三次元で拡張されます。

軸 従来 AIR Core
サービス対象 人間と機械 すべてのAIエージェント(ホームロボット、デジタルヒューマン、仮想アシスタントなど)
地理的範囲 陸上ネットワークのみ Space-Air-Ground統合(衛星 + 地上)
内容 トラフィック単一 トラフィック + トークン + データの三位一体

特に注目すべきは、Non-Terrestrial Networks(NTN、非地上ネットワーク)の統合です。(出典)複数軌道の衛星と地上ネットワークを動的トポロジー認識に基づいてインテリジェントルーティングすることで、僻地・海上・航空・災害時といったシナリオで高信頼・ユビキタスな接続を実現するとしています。

これはZTEが6Gの現実化に向けて、すでに実装レベルでの設計を進めていることを示唆しています。

さらに、新たに「統合データプレーン(RTDS)」を導入し、ユーザープロファイリング、エクスペリエンス可視化、データ価値化を一元的に管理する構想です。これはGCP BigQueryやAWS Redshiftをネットワークの基盤に組み込むようなイメージに近いかもしれません。

現在の展開状況と業界への含意

AIR Coreは現在パイロット段階および初期商用展開の段階にあり、複数のグローバルなキャリアパートナーと協力しながら、「接続提供者」から「インテリジェントサービスイネーブラー」への転換を加速しているとのことです。(出典)

これは5G-AdvancedおよびBeyond 5G(6G)時代における、キャリアのメタモルフォーシス(本質的な変容)を意味します。クラウドネイティブから「AIネイティブ」へのアーキテクチャシフトであり、同時にビジネスモデル自体の再設計でもあります。

正直、ここまで来たかという感じがします。企業レベルでこうした基盤設計が実装段階に入っているのであれば、5G-Advanced~6Gの実用化は想像より早くやってくる可能性があります。