砂漠のデータセンターが直面する水不足の現実

米 Oracle が展開する Project Jupiter AI データセンター は、敷地面積 1,400 エーカー(約 1,601 アメリカンフットボール場分)の巨大プロジェクトです。建設地はニューメキシコ州ドーニャ・アナ郡という農村部の砂漠地帯で、ここで大規模なデータセンターを建設する計画が地域住民との深刻な対立を招いています。(出典)

ニューメキシコ州は連邦最高裁の判決に基づき、今後 10 年間で年間 59 億ガロンの地下水使用量を削減する必要があります。

この地域はもともと水資源が限定的な場所です。さらに深刻なのは、地下水位が近年着実に低下していることで、農民たちは水を確保するためにより深い井戸を掘ることを余儀なくされています。このような状況下で、新たに 1,100 万ガロン単位の水が必要なデータセンターが建設されることに対する懸念は、当然のことと言えます。

電力計画の変更が水利用量に与えた影響

プロジェクトが当初提示していた計画では、状況はさらに深刻でした。当初の構想では 天然ガスタービンとディーゼル発電機を備えた発電設備 が含まれており、これは毎日最低でも 100 万ガロン以上の水が必要とされていました。

しかし 2025 年 4 月下旬、Oracle はこの計画を完全に見直し ました。新たに採用するのは 固体酸化物燃料電池発電所(SOFC) で、従来の火力発電に比べて二酸化炭素排出量も大幅に削減されます。

項目 従来計画 変更後
発電方式 天然ガスタービン+ディーゼル発電機 固体酸化物燃料電池(SOFC)
推定水使用量(日次) 100 万ガロン以上 大幅削減
CO2 排出 多い 削減

この変更は技術的には肯定的な動きですが、同時に 計画の急速な変更が地域住民に十分な検討時間を与えていない という批判の根拠にもなっています。

Oracle の「無視できるレベル」という主張の真意

Oracle によると、データセンター本体の冷却システムについては クローズドループ方式 を採用します。この場合:

  • 初期充填:約 1,100 万ガロン(4 棟に分散)
  • 年間補充量:最大 4,000 ガロン

また、燃料電池システムについては:

  • 初期充填:約 100 万ガロン
  • 年間補充量:16 万 8,000 ガロン(Oracle は「平均的な米国家庭 2 世帯分の年間水使用量より少ない」と説明)

Oracle は年間の水補充量を「無視できるレベル」と呼んでいますが、この主張は地域全体の水消費量との比較によって支持されています。

Oracle がこの主張を支える根拠として挙げるのが、地域の水消費量の実態です。2020 年のデータによると、ドーニャ・アナ郡の農業部門は年間 41 万エーカーフィート(約 3 億 6,600 万ガロン/日) の水を使用しています。郡全体の日次水使用量は約 4,500 万ガロンとされています。

この観点から見れば、データセンターの年間補充量 2 万ガロン程度は確かに統計的には小さな数字に見えます。一般的に、データセンターは造園やゴルフコース、農業用水に比べれば「相対的には」水の大口消費者ではない、というのが業界の共通認識です。

民主的プロセスへの疑問が本当の争点

しかし、この問題の核は単なる 絶対的な水使用量ではなく、民主的なプロセス にあると言えます。

ドーニャ・アナ郡の住民が指摘する問題点は以下の通りです:

  • 計画内容が頻繁に変更されたにもかかわらず、住民に適切な分析・検討時間が与えられなかった
  • 水の排出地域など、具体的な影響についての情報が不足していた
  • 提案されて 1 ヶ月未満で 165 億ドル規模の投票 が行われた(州下院議員 Micaela Lara Caden の批判)

昨年の郡議会では、投票の遅延を求める声が上がったものの、5 人の委員会メンバーのうち 4 人が賛成票を投じました。この際、会場からは「委員会のリコール(解任)を求める」という声まで上がっています。反対票を投じた Susana Chaparro 委員は今も懸念を持ち続けており、環境保護派の関係者からも同様の意見が聞かれます。

データセンター建設計画全体の課題

このプロジェクトが直面する課題は、ニューメキシコ州だけの問題ではありません。参考記事によると、米国全体でデータセンター建設計画は各地で遅延しています。

Jefferies の分析では、2026 年までに計画されていた 24 GW のデータセンター容量のうち、実際に建設中なのはわずか 12 GW です。2027~2028 年については、計画容量の約 80 % でまだ工事が始まっていないとされています。(出典)

こうした遅延の理由には、以下が含まれます:

  • ゾーニング・許認可の課題
  • 電力網接続の遅れ
  • エネルギー供給へのアクセス問題
  • 労働力不足
  • 規制当局との調整

Project Jupiter の水資源をめぐる対立は、こうしたより広い問題系の一つの縮図とも言えます。AI ブームに伴う急速なインフラ整備の需要と、地域住民や自治体の懸念・慎重な検討のバランスをどう取るかは、米国内のデータセンター業界全体が直面する課題なのです。