Zen 6 Threadripper「Mustang Peak」、公式情報が初公開

2024年6月16日、AMD の公式技術ドキュメントから Zen 6ベース Threadripper CPU の詳細仕様が初めて確認されました。(出典)

コード名は「Mustang Peak」。この情報は、ハンガリーのプログラマー InstLatX64 氏が AMD の技術文書ポータルで発見したもので、これまで測定値や推測に頼っていた状況から、初めての公式確認となります。

今回初めて公式に確認された仕様は、Threadripper プロセッサがどの方向へ進化するのかを明確に示しています。

確認された主要仕様は以下の通りです:

  • プロセス: TSMC 2nm クラス
  • メモリ: DDR5 対応
  • I/O: PCI Express 6.0 対応
  • 新ソケット: TR6(従来の TRx40 から移行)

新しいソケットが必要になるのは、PCI Express 6.0 対応に伴うプラットフォーム刷新が背景にあると考えられます。

最大 144 コア—Zen 6「Powderhorn」CCD の威力

これまで AMD の Zen 5 Threadripper Pro は最大 96 コアでしたが、Mustang Peak では最大 144 コアへと大幅に拡張される見通しです。

これを可能にしているのが、Zen 6 で採用される「Powderhorn」コアコンプレックスダイ(CCD)です。従来の Zen 5 CCD は 1 チップレットあたり 8 コアでしたが、Powderhorn では 12 コアに増加します。

世代 アーキテクチャ CCD あたりのコア 最大コア数(Threadripper Pro)
Zen 5 Zen 5 8 96
Zen 6 Zen 6(Powderhorn) 12 144

コア数の増加だけでなく、クロック周波数も「6 GHz を大きく上回る」設計を目指していると報告されており、シングルスレッド性能の向上も期待できます。

144 コア × 2 スレッド = 288 個の処理スレッドです。これは、3D レンダリング、科学計算、ビデオエンコーディングなどの並列処理タスクでは文字通り「怪物級」の計算能力を意味します。

メモリ帯域幅が課題—DDR5 とMRDIMM 活用の可能性

288 スレッドを駆動するには、膨大なメモリ帯域幅が必要になります。DDR5 だけでは足りないかもしれません。

この点で注目されるのが、MRDIMM(Multiplexed RANK DIMM)の採用の可能性です。(出典)

AMD の次世代 EPYC 向けプロセッサ「Venice」では、メモリチャネルが従来の 12 から 16 に増加し、MRDIMM と組み合わせることで 1.6 TB/秒の帯域幅を実現しています。Threadripper も同じ CCD を使用するため、同様のメモリ配置を採用する可能性は十分あります。

  • PCI Express 6.0: 16 リンク当たり双方向で 256 GB/秒(片方向 128 GB/秒)の帯域幅を提供
  • メモリ帯域幅: MRDIMM + 第 2 世代対応で 12.8 GT/s 転送レートに到達可能
  • 用途: AI 推論・学習、大規模シミュレーション、映像処理など

今回注目すべきは、単なるコア数増加ではなく、メモリとストレージ I/O の抜本的な強化も同時に行われている点です。

自宅での Stable Diffusion やローカル LLM 運用を考える開発者の視点では、メモリ帯域幅の拡大は極めて有意義です。大規模モデルの学習や推論時に、VRAM と CPU メモリ間のデータ転送がボトルネックになることが多いためです。

登場時期は 2027年中盤から後半予定

Mustang Peak が市場に投入されるのは 2027年中盤から後半と予想されています。現在は Zen 5 系の Threadripper が主流であり、まだ 1 年以上の開発期間が残されているわけです。

この間、競合する Intel の Xeon や NVIDIA の GPU アクセラレータも進化を遂行するでしょう。AMD としても、1.5 年という期間を活用して、プラットフォーム周辺(冷却ソリューション、電源供給インフラ)の整備を進める必要があります。

結論:「ワークステーション」から「スーパーコンピュータ」への段階的進化

Mustang Peak は単なるコア数の増加ではなく、DDR5 メモリ、PCIe 6.0 I/O、最大 144 コアという組み合わせで、従来の「マルチコア PC」というカテゴリーを超える存在だと感じます。

正直なところ、144 個の CPU スレッドを持つプロセッサが一般向けワークステーション市場に現れるというのは、かなり衝撃的なニュースです。これまで 96 コアの Threadripper Pro でも「十分すぎるほど」と言われていたのが、さらに 50% 増加するわけですから。